税務論点整理|ケーススタディ

相続税の無予告調査は
どこまで認められるか

ある朝、事前の連絡なしに調査官が訪ねてくる。
それは強制調査なのか、断れるのか、税理士の到着まで待ってもらえるのか。
国税通則法の条文と国税庁の事務運営指針にさかのぼって整理します。

結論

無予告調査は、事前通知を省略した任意調査です。
裁判官の許可状に基づく強制調査(犯則調査)とは全く別の制度で、根拠条文は国税通則法74条の10(事前通知を要しない場合)です。
同法74条の9第1項が定める「事前通知が原則」に対する例外という構造になっています。

相続税の調査は事前通知があるのが原則で、無予告は例外です。
ただし例外にあたると判断された場合、その理由は説明されませんし、無予告であったこと自体を不服申立てで争うこともできません。

1

強制ではない。
ただし罰則はある

許可状を持たない訪問は必ず任意調査です。
もっとも、正当な理由なく質問に答えない、検査を拒む、物件の提示に応じないといった行為には罰則があります(通則法128条2号・3号。1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)。

2

無予告でも7項目は
その場で通知される

調査を行う旨、目的、対象税目、対象期間、対象となる帳簿書類、調査対象者、調査担当者の氏名と所属。
この7項目は臨場後速やかに通知することが事務運営指針で定められています。

3

金庫を開けるのは
承諾があってこそ

質問検査権に直接強制の力はありません。
承諾なく金庫や引き出しを開けさせる捜索はできず、それができるのは許可状に基づく犯則調査だけです。

4

相続税は「財産そのもの」が
検査の対象

所得税・法人税の調査が帳簿書類を対象とするのに対し、相続税・贈与税の調査は条文上、財産そのものが検査対象と明記されています(通則法74条の3)。
現金や通帳の現物確認が行われる根拠はここにあります。

5

最大の不利益は
加算税の軽減枠が消えること

事前通知のある調査なら、日程連絡から臨場日までの数日間に自主的に修正申告すれば加算税は軽減されます。
無予告調査ではこの緩衝期間が存在しません。

6

書面添付の意見聴取は
無予告では行われない

意見聴取は「あらかじめ日時場所を通知して調査する場合」の制度です。
書面添付をしていても無予告調査はあり得ますし、その場合は事前の意見聴取が働きません。

最も誤解が多い点

「無予告調査=強制調査(マルサ)」ではありません。
強制調査は裁判官があらかじめ発する許可状に基づいて行われます(通則法132条1項)。
玄関先で許可状の提示がなければ、それは任意調査です。
逆に、任意調査だからといって「帰ってください」で終わる話でもありません。
正当な理由のない拒否には罰則があり、実務上は「拒む」のではなく「確認しながら応じる」ことになります。

当日の動き

  • 1身分証明書の提示を受ける。
    氏名と所属官署を書き留めます(通則法74条の13)。
  • 2通知される7項目を記録する。
    特に対象税目と対象期間は、調査の範囲と加算税の判定に関わります。
  • 3顧問税理士へただちに連絡する。
    「連絡させてほしい、到着まで待ってほしい」と申し出ること自体は正当です。
    到着見込み時刻を具体的に伝えるのが現実的です。
  • 4質問には事実だけを答える。
    記憶が不確かな事項は「確認して回答します」と留保します。
  • 5質問応答記録書は内容を確認してから。
    署名押印に法令上の義務はありません。
    認識と異なる部分があれば訂正を求めます。
  • 6書類を預ける場合は預り証を確認する。
    品目・数量・期間が特定されているかをその場で確認し、写しを手元に残します。
避けたい対応

感情的に追い返そうとすること。
正当な理由のない検査拒否は罰則の対象になり得ます。

その場しのぎの推測で答えること。
相続税調査では10年以上前の資金移動を尋ねられることがあります。
あいまいな記憶に基づく回答が、後に仮装隠蔽(重加算税)の認定材料になることがあります。

内容を確認しないまま質問応答記録書に署名すること。
後から事実関係を争うことが難しくなります。

そもそも実地の調査なのかを確かめる。
事前通知の規定が及ぶのは「実地の調査」だけです。
文書や電話による連絡、税務署への来署依頼といった簡易な接触には、そもそも事前通知の規定が適用されません。
件数としてはむしろ簡易な接触のほうが多く、連絡が来たからといって無予告調査とは限りません。

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